キラキラと一番星

相手を見るとキラキラ輝くのは恋しているか否かのカルジナのお話。


特定の人物が輝いて見える。

キラキラエフェクトそれすなわちラブ、というのは早計である。ガネーシャ神の疑似サーヴァントもとい、ジナコ=カリギリは声を大にして主張したい。

「二人いたら何でも掛け算、……じゃなかった、恋愛にすれば良いってもんじゃないんスよ。恋じゃなくてもキラキラするし、尊敬とか信頼とか憧れとか、そういうのもある」

そう、ブロマンスにはブロマンスの唯一無二の良さがあるように、そこにラブを絡めたら途端に解釈違いで味気なくなるのではなかろか?

まぁ、その無から妄想という名の有を生み出し、火のないところでキャンプファイヤーができるのがオタクという生き物であるのだが、それはそれ、これはこれ。

「――つまり!」

ジナコはピッと白皙の美男子の鼻先に指を突きつけた。

「つまり?」

律儀に重ねたランサーは、多大なる誤解の下にジナコを訪ねていた。彼女には寝耳に水の話で、「それどこソース!?」と詰め寄ろうとしてベッドから転げ落ちそうにもなった。自慢ではないが、ジナコは鈍くさいのである。宝具の度に転んでいるのは伊達ではない。

幸い、と言っていいのかは悩むところだが、ジナコの介護が板についている大英雄が床とご挨拶する前に掬い上げてくれたので事なきは得た。だが、そのまま彼女を手離さずに抱き締めてきたのは「?」以外がなかった。

『……えっと、カルナさん。ボクはどこも痛くないっスよ?』

心当たりがそれしかなかったので、ジナコは自らの無事を告げた。白髪は一度コクリと縦に揺れたが、その腕はジナコの背から離れなかった。

カルナはカルデアに数多いるサーヴァントの中で、彼女の負傷に最も反応した。すさまじく怖い顔をしたランサー曰く、サーヴァントである以上、無傷はあり得ない。頭では理解はしていても、感情が儘ならない。

『これはオレの未熟だ。お前には不自由を強いている。だが今暫し、慈悲をくれないか』

そういうことは、人を射殺しそうな目で言うことではない。もっとこう、他にあるだろう。微笑めとまでは言わないが、カルナは自身の顔貌を悪い方に使うことが上手過ぎる。

(慣れればこれはこれで、愛嬌に思えてくるけど)

しかし初見では「怖い」の一択であろう。まず、慈悲を施すのはジナコではなくカルナであろうに。

ジナコはカルナに気遣われて悪い気はしない。過日、あるいは未来の庇護にも似たそれが今の自分には過ぎたものと知っていても、嬉しいと感じてしまうのだ。カルナに「好きなだけどうぞ」と笑ったのはジナコの事情だ。

(カルナさんだし、良いかなって思ったんスよね)

仮にカルナに抱き締められる姿が誰かに見られたとして、それは転んだ子供の無事を確かめる父親と変わりがない。カルナの性格――彼は施しの英雄と語られる人である――を思えば、誤解など生じようもないはずだった。あくまでも、カルナ側からは。

(今回の原因はボク。でも、しかたないじゃん!)

険しい顔でこちらを見るランサーに、ジナコは申し訳ないやら、心配になるやらだ。

カルナは求められて、それが自らにできることならば与えることを躊躇わない。彼はそれを「できる」と判断したのだろう。

(カルナさんは、もっと自分を大事にして欲しい)

ジナコは遠い目をした。そんな彼女をカルナは見つめてくる。こちらの動静を少しも見逃すまいとするようだが、そもそもとしてこのランサー、ジナコを抱えたままである。

(……今更だけど、この人、いつまでボクのこと抱えてるの)

どこも痛くしていないから、腕を離して欲しい。ジナコは本日ベッドでダラダラすると決めているのだ。

いつもであればここで「今日と言わずお前は布団から離れないだろう。よもや布団と同化するつもりか」と、なんのよもやだということを心配してくれるのだが、今日は首を横に振ることを返事とした。

『お前がオレを好いていると、マスターに聞いた。だから……』

最後の方はモゴモゴ言っていて聞こえなかった。カルナはどうにもジナコを抱えている時、つむじに話しかける癖がある。

『そうなんだ』

それが? というのがジナコの最初の感想だった。

彼女の反応にカルナは頭をこめかみに擦りつけてきた。時折、カルナは言葉を省いて行動で示してくることがある。眼鏡がズレる! と抗議しても知らんふりだ。最後には「どういうことだ」と、こちらの肩口に顔を埋めてくる始末。ジナコから表情は一切窺えなかったが、その行動をあえて言語化するとすれば「不満」というところだろうか?

(ボクは本当のことしか言ってないんだけど)

それが彼女の思いもしない方向に走り出したことは、悪いと思っている。

カルナがジナコをかまうのは庇護だが、ジナコがカルナに一際に好意を寄せるとなれば、見方も変わってくる。ジナコはカルナとは似ても似つかない凡俗な女であるので。これは本当にジナコが悪かった。

「まぁ、ボクはカルナさんが一番好きだし、キラキラしてるって言ったし、これからも言いたいけど」

「……だが、お前にオレは不要なのだろう」

「うーん。不要っていうか、悪いなって思うじゃん。カルナさん、ボクのこと好きじゃないでしょ? その、恋愛的意味で。なのに『できるから』で求婚されたらお断りしかない。まぁ、ボクの好きの意味も誤解なんだけど」

「誤解、なのか」

「そうだけど。カルナさん、マスターにいったい何言われたんスか?」

苦笑まじりに問いかけたジナコに、カルナは瞠目した。

本当に彼はマスターから何を言われて、ジナコに求婚に踏み切ったのか。イマジナリーマスターに問い合わせるも「だってほら、そうじゃないかな?」と微笑む顔が浮かんだ。何がだってほらで、そうなのか、これは一度膝を詰めて話す日が来たのかもしれない。

ジナコはカルナを一番に好いている。それはカルデアで公然の事実だ。羞恥が克つので当人に告げたことがないだけで。というか、前提としてカルナを好きと思うことを隠す必要があるだろうか? ない。何故ならカルナである。

カルナは空前絶後の大英雄だ。全人類はマハーバーラタを読んで欲しい。カルデアのアーカイブでカルナの活躍も見て欲しい。月の記憶は公開できないが、カルナはすごい。絶対と言えることの少ないジナコだが、カルナは英雄だと断言できる。彼は数多の英霊が集うカルデアにあっても、キラキラ輝いている。

ただし、この好意――信頼や憧憬をイコール恋情に結びつけてもらっては困る。カルナが好意に応えようと、自らを施そうとするなど論外だ。

つまり、とジナコは再びの息を吐いた。

「ボクがカルナさんのこと、マスターたちにキラキラして見えるって言ったのは、恋愛的な感情じゃなくて、カルナさんはキラキラしてるのが当然なんスよ」

「オレは輝きとは無縁だぞ」

「はぁ!? カルナさんは太陽っスよ?」

「太陽神は我が父スーリヤだ。オレ自身は太陽を神格化したものではない。お前がオレを父のごとく感じていることは、身に過ぎたことなのだろうが、上手く、言葉にできない」

カルナは彼には珍しく、本当に珍しく苦い顔をした。

ジナコはその暗くも見える表情にピンときた。カルナは存外、根暗なのだ。大方、尊敬する父親と自らを比べて云々というところか。謙遜は美徳だが、過ぎたものはよろしくない。どうしてと言えば、ジナコはカルナが好きで、彼を見ている時が、一番キラキラしているからだ。

「カルナさんはキラキラしてるっスよ。一番星なんだから。あっ、ボクにはってことだけど」

ふへへ、とジナコは照れ隠しのかわりにお道化た。

カルナは全天の一番星だ。後世の評価も高名さも、英霊としての力も関係ない。ジナコには、カルナがそうなのだ。

どこにいても、キラキラ輝く。誰といても、目を奪う。真っ暗闇でも、その光を知っていれば、どうにかなると思う。信じられる。

「ボクの他にも、同じことを思う人はいっぱいいると思うけど、カルデアはボクが一番っスよ」

ジナコは自分を見つめる人の頬に手を伸ばした。白髪の陰で細まる双眸に、やっぱりキラキラしていると思う。

「オレも同じだ。オレもお前が一番輝いて見える」

「……アルジュナさんじゃなくて?」

「オレは人心を解さないと言われることが多いが、今のお前ほどではないと思う」

背を抱く腕が狭くなる。ジナコの頬はカルナの胸について、話す声はつむじから聞こえる。

不思議なことであるのだが、こうして抱き寄せられてカルナの顔が見えなくなっても、ジナコの視界からキラキラは消えない。

「ジナコ。キミはオレに恋がないと言ったが、オレは恋しく想わず愛しく想わず、キミを腕に抱けるほど、無欲ではないよ」

見損なったかと、小さな声が耳朶を打つ。

ジナコはゆっくりと目を瞬いた。ドクドクと頬をつけた胸から心音が聞こえる。

ジナコの一番星はカルナだ。これからもずぅっと全天で輝く。でもカルナは違う。アルジュナやドゥリーヨダナたち、そういうキラキラとした特別な星が彼の空にはあるはずで……。

「ねぇ、カルナ。どうしてだろう」

怖くなるくらいに、キラキラが消えない。

saururuslilium

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