More Than Words

言葉より雄弁なカルジナのお話。


百聞は一見にしかず。論より証拠。

ジナコがカルナに見せることにしたのは、説得が困難を極めたからだった。

どう言っても納得しない。本当かと疑ってくる。それもありの精神はどこに行ってしまったのか。最後は押し黙ってしまうランサーに、ジナコの忍耐は尽きていた。

『もーっ、ボクが嘘ついてないの、カルナさんわかってるんでしょ!』

カルナには貧者の見識がある。真偽など問うまでもなく明白なはず。

ジナコの主張にカルナは「わかっている」と頷いた。だが「オレの問題だ」と堂々巡りをする。

カルナの問題とはつまり、彼の感情的な部分のコトだった。それは予め本人から説明されていた。不貞腐れた態度を見せつつも、彼女がカルナを部屋から追い出せない理由でもある。どれだけ自覚があるかは知らないが、カルナは的確にジナコの弱いところを抑えてくる。

『お前の言葉に嘘がないことはわかっている。マスターからも聞いている。オレが疑う余地はない。わかってはいるんだ。だが、抑え難い。これは過ぎた衝動だ。度し難いことを言っている自覚はある』

訥々と話す相手に、ジナコは唇を尖らせた。

カルナは自分が我儘を言っていると思っている。そういう弁えのない自分を恥じている。だが彼女からすれば、それは我儘ですらない。しょうもないとは思う。面倒な人だとも心底思う。だがその実、悪い気はしていなかった。

『わかったっス。なら、カルナさんが自分の目で確かめればいいっスよ! はいっ、後はどうぞお好きなように!!』

『オレの目で?』

『ボクが言ってもダメ。マスターから聞いてもダメなら、自分で見てみる以外にある?』

今にして思えば「理性!」としか言いようのない提案だ。カルナも途惑っていた。だが他に手があるかといえば、ジナコは思いつかない。

なので、今日もジナコはカルナに証拠を見せることになる。

「ちょっ、そこまで見る必要ある!?」

両手でストップをかけたジナコに、カルナが動きを止める。彼女からすると見上げることになるその顔は無表情に近く、だが瞳には焦れた気配がある。

「確かめるだけだ。それ以上はしない」

「いや、そういうコトじゃなくて」

カルナの好きにさせた場合、ジナコは早々に全裸になることになる。その指はちょうど、ジナコの胸当てを引き下ろそうとしていた。

「そういうことではないなら、どういうことだ」

「どうもこうも、居た堪れないんスよ! 相手がカルナさんでも、その、見られるのは……」

「オレはこの目で知りたい。お前が怪我をしていないか、わかりたい」

これである。ジナコはカルナのこういうところに弱い。

カルナの我儘はジナコの無事を確かめることで、それはすべてカルナのためだった。もしもジナコを心配してと言うならば、信用がないのかと突っぱねることもできただろう。

「大丈夫って言っても、ダメなんスよね?」

一応と尋ねたジナコに、カルナは首肯を返した。

「お前を疑っているわけではない。これはオレの弱さだ」

ジナコが怪我をしていないか。痛い思いをしていないか。言葉で言っても、誰に聞かされても安心できない。自分で確かめなければ不安になる。

そのカルナが言うところの「過ぎた衝動」は、彼がジナコに想う心を見せる。わかり辛いがわかりやすい。心配性だ。過保護だと呆れても、どうしたってジナコはカルナを悪く思えない。

「こんな気持ちになるとは知らなかった。今まで覚えた恐れなど生温く思える」

「また大げさな」

「大げさではない。オレは嘘を吐かないのだろう? お前がそう言った」

「そうだった」

おどけてみせたジナコに、カルナは顔を歪めた。肩を撫でる手は、慰撫というにはたどたどしい。どうしようかと迷って、ジナコは白髪に指を伸ばした。

「しょうがないって言ったら怒る?」

「怒りはしない。オレも同じだ。……だが恐ろしい。お前がいなくなることは怖い」

「それこそ、ボクも同じなんスけどね」

初めて負傷した時、ジナコは呆然と立ち竦むカルナを見た。信じ難いものを目にした人のように、「■■■」と耳に辿り着いた声は、悲鳴に聞こえた。ジナコはそれを自らの心が見せたモノだと思った。

カルナはサーヴァントであることを知っている。マスターのため、人理のため、傷を躊躇わず、死も恐れない。

だけれど、カルナは自分と同じように死にかけるジナコに動揺する。誰よりも英雄である男が、その姿を見せてきた人が――もしかしたら、カルナはジナコも戦えば怪我をする。死んでしまうかもしれない。その当然を頭では理解しても、心ではわかっていなかったのかもしれない。

ジナコの勝手な推測だ。でも、時には自分の目を信じてみてもいいだろう。

「馬鹿な人」

「知っている」

「でも、悪くない。悪くなーい。こういうダメなカルナさん、ボク嫌いじゃないっスよ」

「奇特だな」

「うるさーい! 奇特だなんて、カルナさんにだけは言われたくないっス!!」

ワシャワシャと両手で髪をかき混ぜると、カルナが目元を和らげた。

張りつめた空気が緩む様に、ジナコは忘れていたわけではないが忘れていた。カルナは一度こうと決めたら妥協というものをしないことを。そして「好きにしていい」とカルナを許したのは自分であることを。

なので、彼女はビャッと肩をビクつかせることになった。

「これは」

「ギャッ! カ、カルナさん、何してんスか!」

「……? 見ての通りだが」

「何でボクがおかしい風の顔をする! 見たまんま言うと、カルナさんがボクの胸ガシッて掴んでいるんスけど!?」

「お前の認識通りだ。間違っていない」

「そこは間違ってて欲しかった!」

いつの間に脱がしたのか。いやそれ以前に人の胸を鷲掴むのはどうなのだ。

あまりの事態に二の句を接げないジナコをおいて、カルナは隠すもののなくなった胸を見る。

(毎回だけど何この状況……って、あーっ!!)

細まった瞳孔の先に、ジナコは頬を引き攣らせた。そこに何があるのか、思い出したのだ。

「痛むのか?」

「ち、違う。そうじゃなくて……」

カルナは真剣そのものだ。胸に残るそれが傷、あるいは呪いではないのかと、本当にジナコの身を案じている。

「これは、歯形か」

「~っ! これはっ、カルナさん!」

「――オレがつけたのか」

剣呑な視線にジナコは「そうきたか」と天を仰いだ。

敵に白髪のランサーがいることはある。サーヴァントとはそういう存在だ。だがこれは違う。今回の戦闘でジナコはカルナと会敵してない。そもそもどうしたら、こんな胸のど真ん中に傷がつくというのか。

というか、見ればわかるだろう。いくらジナコでも敵に心臓を噛みつかせるほど迂闊ではないし、もしそんな時が来たならば、ジナコはこうしてカルナの前にいない。戦場とはそういうもので、だからつまりこれは――。

「このカルナさんっスよ!!」

ジナコは両手で思いっきり、痕をつける男の頬を抓んだのだった。

saururuslilium

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