北風か太陽か

2021年9月から2022年10月までのWEB再録集「PickOut50」収録のカルジナです。


余裕をかましていた過去のジナコに言いたい。どうしてこうなるまで放っておいた。

「うぅ、布団が憎い」

布団は素晴らしい。冬は至福だ。ジナコの愛するトップスリーに入る。ぬくぬくは魅惑。

あと十分、あと五分を繰り返す彼女の引きこもりは加速する。白髪のランサーはそんな彼女を危ぶみ、布団との蜜月を打破しようと試みる。ランサーの勝率は悪かった。

いつかならばいず知らず、今のジナコは神霊の疑似サーヴァントだった。筋力値は観測上は同位のB。そして白髪のランサー、もといカルナは他者に何かを強制することが不慣れだった。

彼は彼女が嫌だと言うならば躊躇う。たとえ、それが働きたくないと駄々をこねる女の布団を引っぺがすことであろうとも。

そこはもっと強く出てもいいのでは? とさすがの彼女も思うのだが、しかしそういうカルナの甘さに付け入るのがジナコだった。

彼女はカルナに加勢(主にパールヴァティーのお願いを受けたアシュヴァッターマン)がない限り、まんまと勝利を収めてきたのである。

しかし今日のジナコは布団から出たくて堪らない。彼女は布団との蜜月を終わりにしたい。敗北宣言もやぶさかではない。だができない。

「これで同じ筋力Bって絶対嘘!」

ジナコは布団から這い出そうともがいている。ベッドから出られる気配は微塵もない。そもそも足が動かない。手は左手だけ動いた。右手は無理だった。爪先まで黒い手に握り込まれている。その手が誰のものかは言うまでもない。

「こんなわからせってある!?」

彼女はカルナに後ろから抱え込まれている。体が自由にならないワケである。

カルナが布団に入ってきた当初、ジナコはスルーしていた。誰の入れ知恵かは知らないが、それで飛び起きると思ったら大間違い。こちらは間抜けな寝顔もだらしない寝姿も晒しきった身の上である。体が密着するのも今更だ。

戦闘終了後、腰の抜けたジナコは高確率でカルナに運ばれる。緊張から解放されると、人は安心できるモノに近づきたくなるものなのだ。生理現象と同じようなものなので、目溢し願いたいとジナコは思っている。

彼女にとって、カルナに抱きかかえられる。状況こそ違うが、それ自体は初めてではなかった。ゆえに彼女は暢気に構えていたのである。今は後悔している。悲鳴の一つも上げるべきだった。そうすれば、カルナは布団に入ることは思い止まったはず。

(ボクも悪かった。ちょっと甘え過ぎた)

ジナコが自分で起きるなら、そもそもとしてカルナは部屋に来ない。イロモノサーヴァントとはいえ、一応は未婚女性の寝室なので。しかし布団は至福。起きたくないのは当然の理。快楽に弱い自分が恨めしい。

「カルナさん、ボク起きるっスよ!」

ジナコは起床を宣言した。しかしカルナは動かない。彼女を掴まえた腕も、押しても引いても抓ってもビクともしない。

「カルナさんっ!」

唯一自由になる左手で、ジナコはカルナの頭があるであろうあたり、自らの肩上を手探った。指先が自分とは違う手触りに突き当たる。

「ほら! カルナさんはボクのこと、起こしに来たんでしょ。ミイラとりがミイラになってどうするんスか」

「……ぅ」

かろうじて返って来た反応は小さい。

規則正しい寝息にジナコはお手上げだった。まさかカルナが寝るとは思わなかった。当人にもそのつもりはなかったのだろう。布団に入ってきた当初は、起床を促していたのだ。その間隔が段々と空くようになり「……あれ?」と思った時にはカルナは寝息を立てていた。

恐るべきかな布団の魅惑。強靭な精神を有するクシャトリヤすら惰眠に引きずり込む。凡百のジナコが蜜月を止められないのは最早必然。あと五分も是非もなし。今は眠りの尻尾も掴めないが。

「あっつい。カルナさん、良く寝れるっスね」

二人分の体温で、布団はぬくぬくを通り越して熱々だった。頬は逆上せたように火照っている。小さな寝息が耳にこそばゆい。この男は、ジナコを布団から出したいのか出したくないのか。

「ほんと、良く眠れる」

カルナが何を思って布団に入ってきたかは知らないが、――とんだ北風と太陽もいたものである。

saururuslilium

二次創作小説書いてたりする個人の趣味サイトです。 ※原作・アニメ・出版社・その他関係者様とは一切関係がありません。 ※内容に関してはフィクションであり、実在のものとは一切関係がありません。 ※閲覧の際は一般の方や関係者様のお目に触れないようご配慮をお願いします。

0コメント

  • 1000 / 1000