予測不能が走り出す
2021年9月から2022年10月までのWEB再録集「PickOut50」収録のカルジナです。うまぴょい!
人間、そんなに思慮深くは生きていない。これを言えば、あるいはすればどうなるかなんて、想定する者はいないとは言わないが少ないだろう。考えすぎて言葉足らずになる人物は約一名心当たりがあるが、ガネーシャ神に限って言えば一事が万事深くは考えない。
日常であればなおのこと、ガネーシャ神が「それ」を指摘したのもそういうワケだった。その結果がこうなるなんて……。
「予想できない。できるわけがない。ボクは、スイッチオフ的なことできない? って聞いただけ。アルジュナ君の角、すごいライトブルーだから」
そう、それだけのことだったのだ。
どういうシステムなのかはさっぱりだが、アルジュナ・オルタの角は光る。ライトブルーに光る。誰の神性を統合すればああなるのかは不明。一応は知識の神でもあるガネーシャ神であっても、アルジュナ・オルタの神性はごちゃごちゃし過ぎていて判別がつかないらしい。
実情は本人にしかわからない、と言いたいところだが、アルジュナ・オルタ自身にもわからないらしい。超統合神性の思わぬ落とし穴である。
まぁ、その辺りの内実は彼女が知るところではないので良いのだ。ただ、ガネーシャ神はアルジュナ・オルタのライトブルーをどうにかして欲しかった。怖いだとか、忌避感があるというわけではない。大変、しょうもない理由だ。
「あのライトブルー、ゲーム画面に反射するんスよ。すんごい反射する」
なにせライトブルーなので。
どういう訳か、アルジュナはアーチャーもバーサーカーもゲームに興味があるらしく、彼女がレクリエーションルームでプレイしていると後ろから見ていることが間々あった。おそらくだが、カルナが良く見ているので気になったのではないか。これはあながち、的外れな推理ではないだろう。口に出したことはないが。
巨大感情に講釈をたれるほどガネーシャ神は命知らずではない。真顔の男が三人、等間隔で横並びしているのは見物であったしビビったが。「なにあれ」と呟かずにいられないし、言ってしまったガネーシャ神を誰も責められはしまい。
そこから見過ぎだだの、視線がやかましいだの、自戒をせぬのは悪だの、剛速球の会話のドッチボールが発生したので、彼女は黙らせるかわりにコントローラーを提供した。コテンパンに叩きのめすであり、実際にのめした。人の趣味の時間を邪魔するなど許されざる蛮行なので。
「でも今回のは『うるさーいっ!』てキレるようなやつじゃなくて、もっと軽い気持ちだったんスよ」
画面にチラチラと映るライトブルー。彼女はアルジュナ・オルタの角の輝き(比喩ではない)が気になった。ホラーゲームの時など画面が暗いためか、三角形のライトブルーが目立つ目立つ。ああいうのは一度気になるとダメなのだった。
「アルジュナ君『わかりました』って普通に言うから……。まさか次の瞬間、メキッてするとは思わなかった。カルナさんもだけど、なんですぐに剥がすとか折るって方向に行くの? その辺の躊躇がノーモーション過ぎる。『あ、ライトブルー消えたな~』って思って振り返ったら、顔の半分が血に染まったアルジュナ君とエンカウントしたボクの心情を答えよ」
リアルホラー映像である。
「これでいいでしょうか」と小首を傾げたアルジュナ・オルタに、彼女はもちろん絶叫した。剥がれた頭皮と毛髪と何かと、もう色々とダメである。
卒倒しなかったのが奇跡に等しく、その悲鳴を聞きつけた白髪のランサーがレクリエーションルームのドアはおろか壁までぶち破ったのはご愛敬には出来ないが予定調和だった。
アルジュナ・オルタは角のスイッチオフの仕方がわからなかった。なので、一時的に取り除くことにした。さすがバーサーカーと言いたいが、カルナもアーチャーのアルジュナも似たようなものである。
彼らは思慮深い。だがその主体が自分になった途端に、行動が大雑把になる。出来るからやるの間に、こちらの心情を鑑みるというスキルがない。取得予定もおそらくない。良くも悪くも自我が凄まじく強いのだ。
サイコパスでもあるまいに、むしろ他者を慮り過ぎる癖に、どうして己を対価にする時だけはああも人の心を踏みつけていくのか。
ライトブルーにしてもそうだ。「出来ない」と一言いえばいいだけではないか。それだけで済んだ話なのだ。
アルジュナ・オルタはゲームをしている彼女に近づかなくなった。その角が目障りだと言ったも同然なので。軽い気持ちでとんでもない非道を働いてしまった気がする。
ガネーシャ神は後ろめたくなった。彼女は神霊の疑似サーヴァントだが、中身は小心な人間なので傷つけたと思うと心苦しくなる。アルジュナ・オルタが気にしていないとしても、良いことをして楽になりたい。相手のためではない自分のための何か。
あぁ、でもまさか。それがあんなことになるなんて。
「それが『あれ』ですか?」
「折る以外だと、思いついたのが『あれ』でした」
ガネーシャ神は粛々と告げた。それを静かな顔で受け止めたアルジュナは、正直「この神霊、どうしてくれようか」と思った。
アルジュナ・オルタの角は切除できない。発光を止める方法も今のところはわからない。彼女は知らなかったのだ。言わなかったアルジュナ・オルタも悪い。ガネーシャ神が思い煩う必要はないと思うが、そうは思えないのがこの疑似サーヴァントなのだろう。その善性は尊ばれるものだ。だがしかし、だからと言って「あれ」はない。
彼の視線の先には、自らと同じ顔をしたサーヴァントがいた。インド異聞帯の王として君臨した滅ぼしの神。汎人類史のアルジュナのあり得ざるイフ。
その黒髪に異形の角は「ある」けれど「ない」。ガネーシャ神が彼に知恵を授けたのだ。大変、碌でもなくしょうもない知恵を。
事の次第にアルジュナは比喩でなく眩暈がしたし、頭も痛かった。サーヴァントは病と無縁であるにもかかわらず。
「何故『あれ』だったんです」
「変えられないなら、隠すしかないかなって」
おずおずとガネーシャ神が言う。
それは間違ってはいない。変えられぬものは隠すしかない。アルジュナにも覚えがある。暴かれる恐怖と表裏だが……。思考が大仰になるのは、彼にも現状に打てる手がないからだった。
「なるほど。隠す、というのは良いでしょう。慧眼だとも言えます。えぇ、変えられぬならば覆ってしまえばいい」
たとえば、布ですっぽりと。
障害神でもあるガネーシャ神ならば、光を完全に遮断する礼装も用意できるのだろう。しかし、その礼装を身に着けたアルジュナ・オルタはとても何かを想起させた。たとえば、最近ガネーシャ神が熱心にプレイしているソシャゲと呼ばれるものに出てくる……。
前方から軽快な音楽が流れてくる。修練の成果を見せるとアルジュナ・オルタは言っていた。彼は完璧に成し遂げる。その努力を否定することは出来ない。出来ないのだが。
「ガネーシャ神、角を隠すことは良い。ですが、『あれ』は必要ありましたか?」
アルジュナの呟きにガネーシャ神はガバッと頭を下げた。
「悪ノリしましたごめんなさい! でもすごい、う〇ぴょいして欲しくなっちゃったんスよ~」
最初は耳カバーならぬ角カバーで「良し!」と思ったのだ。だが、それをつけたアルジュナ・オルタにガネーシャ神は思わず言ってしまったのだ。「うー、うま〇ょい、〇まぴょい!」と。彼女は大凡において懲りない。興味を示したアルジュナ・オルタに、これは自分の罪悪感を薄める口実になるのでは? という打算もあった。
その後については詳細を伏せるが、シミュレーターにはあれよあれよという間にステージができ、気づけば大舞台を迎えていた。マスターは最前列でマシュとサイリュームを振っている。獣耳か角のあるサーヴァントはほとんど出場する。鬼種までステージに出るというのだから凄い。ちなみにカルナも出る。
「――今、何と言いましたか」
「カルナさんも、うまぴ〇いする」
どうしてそうなったかはわからないが、それが現実である。
アルジュナは信じられないものを見る顔でガネーシャ神を見てくる。発端はガネーシャ神だが、その後のことは彼女の管轄外である。
「ほんとっスよ? カルナさん角カバーが気になるみたいで、あげたらなんかそう言うことに」
「そうですか。貴女の迂闊さは今更として、その角カバーに予備はありますか?」
「あるけど……?」
色やデザインにやたらと凝ってしまったので、あらゆるモデルが存在する。イメージについては秘密だが、彼女がインドサーヴァントを箱で推していることはバレにバレていた。しかし、角カバーをどうするのか。
「私もうまぴょ〇をします」
「――なんて?」
「完璧に完全に、異聞帯の私よりも、――カルナよりも完遂する。マスターの最優は、このアルジュナです」
「わぁ、最優すごーい」
ガネーシャ神は棒読みで大英雄を見送った。
アイドル特異点を基盤にしたステージは煌びやかだ。だがそれ以上に出てくるメンバーがすごい。人類史の誇る英霊しかいない。こんな豪華で贅沢なステージは、神様だって早々見れないだろう。う〇ぴょいだけど。我ながら、なんて知恵を授けてしまったのか。
(ボクってほんと後先考えない)
どうしてこんなヘンテコなことになったのか。神霊の疑似サーヴァントとして現界してからこちら、彼女が時折思うことである。
彼女の思慮が足りないからか。だが、誰がこうなることを予想できよう。わかっていたら、止めたのか。
事の発端が、彼女に向けて小さく手を振っている。そういうファンサは心臓に悪い。でも無視するわけにもいくまい。彼女はぎこちなく手を振り返した。最後に参加を表明したセンターが、すごい目をしている。ただでさえ深淵を見たような双眸は、今や光すら吸い込みそうだった。
音楽が間奏に入り、センターが入れ替わる。でも彼女には最初からその人は中央にいたのと同じだった。目がどうしたって探してしまう。
角も獣耳もないのに、彼女から角カバーを得た男は、ピシリと天に指を突きつけポーズをとる。眼光が険しい。まるで銃口を向けられているようだ。
「きみの、愛馬がっ!」
「ドスが、効き過ぎ!!」
彼女は懲りずに思ったままを口にしていた。でも、ノーコメントなんて無理だろう。おかしくってしかたがない。
(だって、こんなの誰がわかるって言うの)
声を上げて笑う彼女から男は視線を外さない。笑ってはダメだろうか? 無様を晒したとか、そういう根暗なことを考えているのだろうか。だけれど、おかしいものはおかしいし、それ以上に楽しいものは楽しい。
うぅ、と彼女は唸った。この気持ちをどう伝えればいいのだ。相手はステージの上だし、彼女は大声をあげるのが得意ではない。
たじろぐ男に彼女の情緒はグラグラだった。もうこれしかない。恥はこの後の彼女がどうにかする。
「うーっ、うま〇ょい、〇まぴょい!」
頭の横に手をあげてぴょいぴょいとする。それはおしもおされぬ、一番有名なポーズだった。
パッと男の双眸に光が差した。果たしてこの後どうなるのか。彼女にはまったくこれっぽっちも予測がつかない。目で殺されるのかもしれない。
「うま〇ょい、〇まぴょい」
男がアドリブでぴょいぴょいする。その顔には、はにかみがあった。彼女はウグッと息を飲んだ。
「……やっちゃった」
彼女は考えが浅い。思慮が足りない。いつまでたっても懲りない。
だから、ずきゅんとするし、どきゅんとする。――そういう、予測不能な目に出逢うのだ。
なお、何故かそういうものになったが。う〇ぴょいは、求愛のダンスではない。
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