似ているけどそうじゃない

2021年9月から2022年10月までのWEB再録集「PickOut50」収録のカルジナです。


何がどうしてそうなったのかといえば、思い当たることしかなかった。

(わかる! わかるっスよ!! ボクもそう思うもん!!)

本日、ガネーシャ神はある事実を知った。耳にした当初は「何言ってるの?」と唖然としたが、あらためてみるとそうとしか言えなかった。

これはどうにかしなければいけない事態だ。しかし、彼女の訴えをカルナは取り合わない。どういうことだ。このままだとカルナの人生が荒れ野になる。

「……荒れ野はないと思うが」

「あるっスよ!? カルナさん、ボクに一目惚れしたってことになってるんだから!!」

「それは知っている」

理解を伝える相手に、彼女はクラクラとした。この揺るぎのなさに不安を覚える日が来ようとは。

施しの英雄カルナは、ガネーシャ神の疑似サーヴァントに一目惚れをした。

どうしてそんな認識が……といえば、カルナの言動が発端でありすべての証明だった。

初対面だが気を惹かれる。大切な誰かのように感じる。一目逢ったその瞬間から好意を抱くなら、それはつまり一目惚れ。ガネーシャ神も納得のことである。カルナの相手が自分でないならば。

「ガネーシャ神よ。オレはお前に一目惚れをすると人生が荒野になるのか?」

「そうっスよ」

ガネーシャ神は重々しく頷いた。カルナはそんな彼女に大きく首を横に振った。

「お前にはお前の見識があるのだろうが、それはないぞ」

「あるんだってば! 今はなくても、絶対そのうち苦労するのが目に見えてる!!」

「その危惧がオレには思い当たらない」

不可解と大書きされた顔に彼女は頭を掻き毟りたくなった。ダメだこの男、事の重大性をまるでわかっていない。カルナはガネーシャ神が部屋に引っ張ってきた当初から、この調子である。頭が痛い。切実に誰かに代わって欲しい。

だが、彼女が匙を投げればお終いだということにも気づいていた。カルナのガネーシャ神に対する言葉や行動は、どこをどう切り取ってもそうとしか思えないものなのだ。

彼女が「あれはそういうのじゃないと思う」と主張しても、それはカルナの一目惚れを補強した。ガネーシャ神が拒むほど、つれない相手に求愛しているようにしか見えないのだ。客観的事実が強すぎる。もはや主観――カルナから覆すしかなかった。

「カルナさんは、ボクに一目惚れしたの?」

「していない」

「ですよねぇー、でもそういうことになってるの! このイロモノサーヴァントのボクに! 一目惚れ!! このままだと、カルナさんの好みのタイプはボクっていう概念が固定化するんスよ? カルナさんは、第二の人生が荒野になっても良いんスか!?」

「荒野にはならないと言っている」

「その自信、どこから出てくるんスかぁ……。カルナさんだから大丈夫って気もするけど、もしかしたらってこともある。カルナさん、フラれるっスよ?」

「オレは、好意を得るに値しないということか?」

瞠目する姿に、気づいていなかったのだな、と彼女は気が遠くなった。

「そうなってもおかしくないってこと」

これからカルナに好きな人ができたとして、相手も彼を憎からず思ったとして、だがしかしあのランサーの嗜好は……となれば、ガネーシャ神は申し訳なさ過ぎて穴に入りたくなる。

カルナはガネーシャ神に一目惚れなどしていないのだ。ただ少し、どこかで逢うことがあったかもしれないものだから、その名残とも呼べないモノが残響しただけ。

「誤解を誤解のままにして、後で苦労するのはカルナさんなんだからね」

カルナがガネーシャ神に好意を感じてくれた。それは嬉しい。彼女の胸を温める。だが本当に、言い方というものがある。

(大切って、そういうのは悪い気はしないけど)

ガネーシャ神はカルナに幸せになって欲しいのだ。好きな相手ができたなら、全力でサポートしたいと思っている。寂しいと涙ぐむ予感はするが、そういうのは彼女の事情だ。ガネーシャ神は、カルナの幸福の障害になるなど絶対にお断りだ。小石レベルでもアウトである。

「わかった。誤解は解く。オレはお前に一目惚れはしていない」

当然の事実を口にするカルナに、ガネーシャ神は当たり前じゃないかと思う。

一目惚れ、なんて誤解が生まれたのが不思議なもので、それはまぁ、カルナの言動が熱烈としか言えないものであったからなのだが……でもそれも今日限りだ。

「そうっスよ。カルナさんはボクに一目惚れしてないって、ちゃんとみんなに言って来て下さいっス」

「あぁ、任された。オレは一目でお前に惚れたのではないからな」

「…………ん?」

今、絶妙にガネーシャ神の予想と違う言葉が飛び出したような?

首を傾げる彼女に、カルナは「言葉が足りかなかっただろうか」と眉を下げた。

「オレはお前に惚れてはいるが、それは一目によるものではないと、そう言ってくる。ではいつからだと言われると上手く言葉にできないのだが……お前とこうして逢う以前からだと、そういう確信がある。これは消えぬ感情だ。この想いを一目惚れという言葉で覆うのは、あまりに怠惰だった。お前が正すのも道理だ。荒野となる前に、お前がオレに惚れられていると、その事実を受け入れてくれている間に、――行ってくる」

「あ、はい。いってらしゃい」

カルナが部屋を出て行く。ガネーシャ神の頭の中では「引き止めないと!」と主張する彼女がいたが、それは不可能だった。

彼女は両手で顔を覆った。誰も見ていないとわかっていても隠したかった。

「なんでああいうこと、ギリッギリでバラしてくのよ」

そうだった。彼女は一度も、カルナに一目惚れをされていると、そのことを一瞬だって嫌だと思わなかった。カルナはそのことに気づいていた。

「ほんと、言い方ぁ」

一目惚れより性質が悪い。これは本当に、大変なことになってしまった。

saururuslilium

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