膝裏枕のノック―オンエフェクト
2021年9月から2022年10月までのWEB再録集「PickOut50」収録のカルジナです。
誘ったのはジナコだ。若干の語弊があるが、事実は事実である。
「この結果は予想してなかった」
「協議の上だ」
「そうだけどー」
ジナコは足をジタバタとした。その拍子に合わせて、膝の上で重みのある物体――カルナの頭が上下する。ちゃんとついているので悪しからず。
時々、ジナコはカルナに膝枕する。放っておくとカルナは寝ないのだ。サーヴァントに睡眠は不要というのが彼の言い分だが、それとこれ、サーヴァントの性能とジナコの心情は別である。
カルナは疲労が顔に出ない男である。瀕死でもギリギリまで言わない。後から実は、が常套手段になっている。油断も隙もないので、ジナコは先手を打つことにした。ここで出すべきは膝枕。
どうぞ~と手招いた瞬間にカルナは渋い顔をしたが「カルナさんもこのイロモノサーヴァントはナシって言うんスね……」とヨヨヨと泣き真似をしたら観念した。その顔は不承不承がダダ洩れであったが。カルナの表情筋も仕事をする時がある。
彼女は「これは寝ないな」と確信したのだが、驚くことにカルナは寝た。頬を突いてもうんともすんとも言わない。呼びかけても返って来るのは沈黙。時々唸り声。熟睡である。やっぱり疲れてたんじゃない、というのが彼女の見解である。しかし、これは膝枕と言っていいのだろうか? 膝は膝であるのだが。
膝枕とは、正座した膝(というか太腿)を枕がわりにすることを言う。ジナコは正座をしていない。ベッドにうつ伏せに寝転がっている。カルナはどうしているかというと、うつ伏せたジナコの足、というか太腿、というか膝裏に頭をのせている。
これが本当の膝枕。膝とは大腿と脛を繋ぐ関節を言うらしい。ちなみに膝裏はひかがみと言う。つまりこれはひかがみ枕。人が見れば、ドウイウコトナノ、が約束されている。
ジナコもどうしてこうなったのか首を内心捻っている。カルナもそうだと思う。行動で折衷案を示してきた男の心の裡は、今のところ語られていない。
「カルナさん、これ寝づらくない?」
「問題ない」
寝位置が決まったらしいカルナは「お前は」と話しかけてきた。
「ボク? 平気っスね。今までで一番楽かも。ゲームもできるし、これはアリ」
「そうか。だが油断はするなよ。その太々しい足が立ち行かなくなるのは見るに堪えない」
「はいはい、心配どうもー。痺れたり痛くなったら、問答無用で落とすんでお気遣いなく」
「…………わかった」
妙に間が開いたのは、疑っているからだ。信用がない。ジナコには実績があるのだった。カルナの危惧はわかる。しかし、仮にもレディのおみ足を太々しいというのはどうなのだ。ジナコの体がニッチ仕様であることは百も承知。だが腹は立つ。ジナコは足を再びジタバタした。カルナは律儀に頭を左右に動かした。膝裏にしっかりとした重みが伝わる。
ジナコはカルナに膝枕をするまで知らなかったのだが、人の頭は意外と重い。足は痺れる。長時間同じ姿勢を続ければ、体も痛くなる。世の方々はどうやって膝枕を無理なく提供しているのか。
(二次元だと朝までとか普通にある。絶対無理でしょ)
彼女は毎回、足腰が立たなくなった。「何故こうなるまで放っておいた」と言われても、気づけば下半身の感覚が麻痺している。それがジナコだった。だって起こせない。理由については不問願いたい。
同じ轍を踏み続けるジナコに、カルナは膝枕拒否勢になった。彼女の体に配慮した結果だが、そうですかとは納得はできるかといえばノーだ。相手はこっそり死にかける男である。
膝枕をしたいジナコと、されたくないカルナの協議の結果が、この膝(裏)枕だった。この解決策はアリなのだろうか? カルナが休めるならば良いのだが。
(寝顔が見れないのはピコッと残念だけど、優先順位はカルナさんが上)
物は試しともいう。ジナコはまろみ豊かだ。柔らかさは保証できる。
カルナは凡夫だ。想像力がない。この結果を予想できなかった。
頬の下に、柔らかい肌と肉、細い筋、小さな骨の感触がある。耳をつければコトコトと血脈の音がした。
協議の結果、カルナはジナコの膝裏(ひかがみとも言うらしい)に頭を預けることになった。ジナコの善性を甘受でき、その身に苦痛を強いるリスクが少なく、カルナ自身もこれならば耐えられる。そう判断した。
甘かった。今までも、ジナコの柔らかさはカルナの意識を速攻で落としてきたのだ。頭に血が上り過ぎた結果の気絶だった。
「良く寝てたっスね」と、こそばゆげに笑う顔には少しの後ろ暗さを覚えたが、深いところまで意識が落ちるので、広義の意味では睡眠だ。嘘は吐いていない。
とはいえ、ジナコの膝枕を得続けるのは問題があった。カルナはジナコに気を惹かれる。この「惹かれる」には、庇護の意味もあったが、恋情や肉欲の意味もあった。
(オレは考えが足りない)
ジナコが、カルナを男として見ていないことは知っている。
怖ろしいことだが、ジナコはカルナを膝に乗せたまま身を屈める。そうするとどうなるか。
平時の彼女は、神霊の装束ではなくArtsと書かれたTシャツとショートパンツを常としていた。詳細は伏せるが、色々と距離が近くなり場合によっては密着する。カルナはジナコが下着をつけていないことを、身をもって知った。その瞬間に気絶しなければ、カルナはジナコを食べていた。
(動けなくなるまで耐えるというのもどうなんだ)
足が言うことを利かない。寝台の上で笑う姿は食べてくださいと言っているようなものだった。ジナコにその意図がなくとも、カルナの目にはそう見える。
膝枕は危険だ。カルナはジナコを食い散らかしたいわけではない。大事に、大切にしたいのだ。だが、ジナコも退かなかった。珍しく、本当に珍しくカルナの腕を自ら引くのだ。
『カルナさん。労りの膝枕、いるでしょ?』
意中の相手に誘われて、カルナが勝てるわけがなかった。カルナはジナコと話し合った。その結論が、うつ伏せでの膝枕だった。
頭を脹脛にずらして、親指でそのくぼんだ肌を押してみる。黒い指がほんのわずかに柔い肌に沈んだ。
(オレは迂闊だ)
しっとりとした膝裏の肌質に、カルナの欲求は溜まる一方だった。ジナコがうつ伏せならば、胸も腹部も、もっと言えば男を受け入れる秘部も、意識する余地はないと思った。
「コラッ、なに悪戯してんスか。くすぐったいっスよ……っ」
クスクスとジナコが笑う。視線を上げれば、肩が震えているのが見えた。逃れようという戯れだろう、足が動いて、太腿の奥に翳ができる。
コクリと喉が鳴る。頭に熱が籠る。早く、早く気絶しなければ。
カルナはその肩を抑えつけて、暴く柔らかさを想像している。
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