贔屓あるいは惚気
2021年9月から2022年10月までのWEB再録集「PickOut50」収録のカルジナです。
こんなことになるなら、あんなことはしなかったのに――というのは嘘である。わかっていたなら絶対にやった。
「ジ、ジナ、ジナコ。これは、どうする。オレは、どうするんだ」
「どうも、こうも……ブフゥッ!」
ジナコは噴き出した。
時は穏やかな平日昼下がり。気が向いたので彼女は動物園に来ていた。現在地はふれあい広場。ジナコはベンチに、カルナはモルモットに囲まれている。制圧、というのが正しいかもしれない。スニーカーの上にまでモルモットが乗っている。総勢五十匹越えのモルモットパラダイスだった。カルナはその中央で新手のトーテムポールになっている。
はじまりはジナコの仕返しだった。カルナが、広場の中で一際丸みを帯びた茶色のモルモットに目を止めて「ジナコのようだな」と宣ったので。モサッとした巻き毛のモルモットで、ジナコも一瞬、自分に似ているな、と思ったがそれはそれ、これはこれである。彼女は無言でワンカップ100円の飼料を購入し、それをカルナの周りに撒いて歩いた。その結果のモルモット結界だった。
カルナは一歩も動けない。一匹をどかしてもすぐに次のモルモットがムギュッとやって来る。カルナは「好きなだけ貪るがいい。だがそれは靴紐だ」とモルモットに話しかけ始めた。結界を破ることは諦めたらしい。
ジナコは笑いが止まらない。ヒィヒィとベンチを叩きながら、スマホで撮ることも忘れない。SNSには流さないが(カルナは恐ろしいほど美形なのだ。世には出してはならないものもある)、身内には見せる。
「カルナさん、追加のペレット入れてもいい?」
「肥やすのは自分だけにしておけ」
「はい、購入決定。モル結界延長っスよー」
ジナコはペレットをカルナの周囲に追加しようとした。が、できなかった。彼女の足元には、どういうわけかモル結界を形成し損ねた一匹がいたのだった。他のモルモットはカルナ(の周囲のゴハン)に夢中なのに、どの界隈にも輪に混じらぬ硬派はいるのだった。
このままでは蹴飛ばす・オア・踏む! モルモット(毛色・白)は逃げる素振りも見せない。ほのぼのふれあい広場を惨劇の舞台にする訳にはいかない。慌てた彼女はペレットを「ピギャァアアアッ」と自分の周囲に盛大に撒いた。カルナは無言でスマホを構えた。第二のモル結界だった。
「ちょっ、カルナさん何ドヤ顔してんスかぁ!! うぎゃぁあ、どんどん来るぅ!! カルナさん、どっ、どうするんスかこれぇええ!!」
「どうすると言われてもな。オレもこの通り身動きが取れない。主たる原因はお前だ」
「そうだけどぉっ! 元はと言えば、カルナさんのデリカシーがマイナス値なのが悪いんじゃん! ん? あれ、良く見るとこのはぐれ白モル、カルナさんに似てない……? 目つき悪いし」
「この茶色の毛玉にしか見えんモルモットも、お前を彷彿とさせる愛らしさだ。ふてぶてしく丸い」
「あーっ、カルナさんがモル贔屓している! 優先的にゴハン施してるっス!!」
「そう言うお前も、その目つきの悪いモルモットに手ずから飯を与えているように見受けられるが」
「だってこの子、すぐ最後尾に回ろうとするんだもん。お腹空いてるのに遠慮することなんてないんスよ~」
なお後日、ジナコは件の動画を爆笑映像として身内に披露したのだが、その全員に「徹頭徹尾惚気っ!」とブーイングを頂戴することになる。
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